豊かな自然に囲まれた北海道を、貴方も慈しんでみませんか?

 春。芽吹きの季節。生命の息吹、美しい華が咲き乱れます。
 夏。深緑の季節。雄大な自然をご堪能下さい。
 秋。紅葉の季節。天然の花火が皆様を迎えます。
 冬。白雪の季節。海の幸やウィンタースポーツなども!

 帆樽の街は、その全てを味わうことが出来る街です。
 是非一度、訪れてみてください。

 そして、お立ち寄り下さい。
 ホテル川端は、街を見渡せる小高い丘の上にあります。
 帆樽の美しい夜景と共に、最高のおもてなしを、貴方に。
「ぜひ、いらしてくださいね?」
 一同、心よりお待ちしております。



 川端 友希乃、27歳。
 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は薔薇の花。
 才色常備、美人長命……え、ちょっと違うって?
 んまぁいいじゃないの。額面通りの言葉なんて面白くないっしょ?
 とにかくそれがあたし。苦情は一切受け付けません。

 帆樽の街外れにある、ホテル川端。
 その建物の中で、あたしは缶ビールを片手に、非常に上機嫌だった。
 なんでかって? そりゃもう、良いことがあったからに決まってるからでしょ。
 そんなあたしの前に、人影が二つ。
 友江 淳と美崎 文緒。
 二人ともウチのホテルの従業員として、住み込みで働いている少女達。
 うんうん、日々の労働ご苦労だぞ、諸君。
 あたしはそんな二人を前に、上機嫌でビデオ上映会を行っていた。
「どうこれ。良い出来栄えっしょ?」

 未だに良く言ってるよね、不況不況って。
 でも実際は、全然不況じゃないと思うんだわ。
 だって、貧困極まって餓死する人とか、ニュースで見たこと無いもの。
 そういう意味では、まだ日本は全然問題ないと思うわけ。
 ……だからこそ、少しはお客さんが来ても良いと思わない!?
 なんか文緒の計算だと、年々経営状況は悪化、客足は遠のくばかりとかでさぁ。
 そんな状況を改善するために、このビデオは創られた!
 ホテル自体は良いんだから、もっと名前が広まれば、お客も来る! ビールも飲める!
 その為にはやっぱ、ホテルをアピールしなきゃ!
 でもさ……業者さんに全部お任せしまーす、っていうのも無責任な気がしてねぇ。
 だってホラ、あたし経営者でしょ? 一応。
 っていうわけで、ビデオに出てみました。フルカット総出演。
 これがホントの“一肌脱ぐ”ってやつだわね。別に着替えただけだけど。
 もーね、淳ちゃんのメイド服とか、胸がきつくて苦労したわよ、ほんっと。
 あの子もまだまだ、女として未熟ねぇ。

 というわけで、あたしはそのビデオが完成したから上機嫌だったわけ。
「友希乃さん、あの、ビデオ終わりました」
 そんなことを考えていたら、どうやらビデオ上映が終わったらしい。
 ぱっと振り向くと、そこには青い画面のテレビと、引きつった表情の二人。
 心ここにあらずって感じなんだけど、少女達にはまだ、大人の魅力は早すぎたとか?
 まぁいいわ。んなことは聞きゃわかるし。
「では早速、何か言いたそうな顔をしている労働者諸君の感想を聞きましょうか?」
「えっ!? そ、そんなことないですよ。ねぇ、文緒さん?」
「……う、うん。ないです」
「嘘おっしゃい、さっきから顔に出てるわよ……まぁお店のことだしさ。怒らないから、本音を一つよろしく。文緒もね」
「お店……は、はい。わかりました」
「そうですよね、お店のためですよね! お店……う〜ん……」


 従業員1:友江 淳さんの証言
 ん〜、友希乃さんの事を悪く言う訳じゃないんですけど……。
 なんというか、普段の友希乃さんを知っているだけに……ね?
 友希乃さんがあまりに綺麗だったので、ビックリしちゃいました。
 でも、あれを見てお店に来た人は、きっとがっかりするんじゃないかなぁ。
 友希乃さん、ビデオと現実のギャップがありすぎです。
 普段からああいう格好で、ああいう態度なら良いのに……。
 あと、これはお店への意見なんですけれど……。
 カップルがむかつくとか、言っちゃだめなような気がします。
 ボクが知ってるだけで、予約を四件くらい断ってるような気がするんですけど……。

 従業員2:美崎 文緒さんの証言
 おばさん……普段からああいう格好をしていれば良いと思います。
 あ、格好だけじゃなくて、もちろん、態度も。
 あと電話の応対とかも、もうちょっと言葉を優しくすれば……。
 し、新婚さんの予約は絶対に断るとか、そういうことをしなければ、大丈夫だと思うんです。
 あと、あと、ビール代が実は結構な負担に……。
 最近はお料理でも使いますから、突然無くなったりすると、淳が買いに出かけたり……。
 それでお巡りさんに掴まって、電話があったり、とかも……ありました。


 巻き戻しが終わったので、もう一度ビデオの再生ボタンを押してみる。
 ふむ、なるほど……現実とのギャップ、ねぇ……。
 ちなみにビデオには、二十歳を少し越えたくらいの美女が、メイド服を着て健気に働いている。
 自画自賛の部分を切り捨てたとしても、なかなかに良い写り映えだと思うわ。
 その正反対である……ってことは。
「ほぅ……そんなことを思ってたとはねぇ……?」
「ゆ、友希乃さん、笑いながら怒ってる……!?」
「お、おばさん、落ち着いて……」
「あ? “おばさん”だぁ?」
「え、う、えっと、友希乃さん」
「よろしい。まーそれとこれとは話しが別で……どーゆーことか説明して貰いましょうか、お嬢ちゃん達?」
「え、あ、だ、だって、友希乃さん、その……猫かぶり……」
「おば……友希乃さん……年齢詐称……」
「喋ったところは褒めてあげようか……でもあたしゃ、まだ27だよっ!」
「ひゃッ!?」
「お、怒らないって言ったのに!?」
「それとこれとは話が別さね!」
 そりゃもう、小娘相手に本気で怒るわけは無いさ。
 しかし時には躾も必要。


 ……ちょっと、強くやりすぎたかな。


「んじゃあちょっと飲みに行ってくる! 鍵持ってくから、後かたづけと戸締まりしっかりね♪」
「うう……友希乃さんひどいよぉ……」
「ゆ、友希乃さん……あ、行っちゃった……」
 散らかったホテルを出ると、もう吐く息が白い。
 今度雨が降ったら、それはもう雪に変わってしまうかもしれない。
「はぁ〜……今年もまた、北海道の長い冬が始まるわ」


 ホテルの中では、まだ、淳ちゃんと文緒が何か言っていた。
 ……にゃろめ。