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          「楓さん、おはようございます」 
          「おはようございます‥‥あの‥‥お父さんとお母さんは?」 
          「旦那様と奥様は本日医学会に出席のため今朝早くに出て行かれました」 
          「そう‥‥兄さん達は?」 
          「みなさまもお仕事で‥‥」 
          「わかりました‥‥ありがとう‥‥」 
          「お食事のご用意が出来ていますが、いかがされます?」 
          「食欲がわかないので申し訳ありませんが‥‥すみません」 
          「そうですか‥‥」 
          「‥‥あの‥‥それでは、私もそろそろ大学に行きます」 
          「はい、いってらっしゃいませ」 
           
          私は家族の温かみを知らない‥‥ 
          いいえ、知らないというよりも覚えていない‥‥ 
          遠い昔確かにそれを感じたことがあったような気がするけれど、それは想い出の深いところで眠っている‥‥ 
          我が家は代々医者の家計で父も母も兄妹達も皆医者で多忙を極めているため家族が全員揃うことなどほとんどない‥‥ 
          みんなで楽しく食卓を囲むことなど我が家ではあり得ない‥‥ 
          私は憧れている‥‥そういう温かな物に‥‥ 
          普通の家庭で当たり前のように行われている些細な家族の触れ合いに‥‥ 
          いつか私はそれを手にすることが出来るのでしょうか‥‥ 
          それを与えてくれる人に出会えるでしょうか‥‥ 
          私の存在を認め愛してくれる人々に‥‥ 
          いいえ‥‥待っていてもそんなものは訪れはしないと私は知っている‥‥ 
          この世には奇跡という言葉があるけれど‥‥奇跡というものは存在しない。 
          それがなるためには、様々な要因が重なって起きることであって、決して黙って祈っているだけでやってくる甘い物ではないと知っているから‥‥ 
          だから、私は私に出来ることを精一杯頑張りたいと思います‥‥ 
          誰も愛してくれないのなら、愛して貰えるように努力します‥‥ 
          私が望む物はとても些細なことだけど、それでもそれは何物よりも大きくて大切でかけがえのないものだから‥‥それにみあった努力を惜しみません。 
          なにを犠牲にしても、私はそれを手に入れたいから‥‥ 
          振り向いてください私に‥‥ 
          抱きしめてください私を‥‥ 
          愛していると言ってください‥‥ 
          それだけで私はなにもいらない‥‥ 
          そう、自分の夢さえも‥‥  
          
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