STORY

突然、窓の外の景色が変わった。
視界いっぱいに広がる海。
風が変わる…窓越しにも潮の香が感じられるくらいに。
電車は海と平行に走り、車内に期待に満ちた歓声が上がる。
色とりどりのパラソルや車の列、そして海で遊ぶ人たち。
流れていく景色に、あたしはため息をつく。

………戻ってきた……この街へ。

照りつける日差しを手で遮りながら歩き出す。
海が見たい……自然と足が速まる。
波の音が大きくなる、そして海からの風が熱気を追い払う。
期待に胸をふくらませて、堤防までやってきた。

この季節だけ、人で賑わうリゾート地。
懐かしいって気分はしなかった。
でも、海の大きさや、風の心地よさに感動する。

突風に、髪が揺らされ首元をくすぐる。
こそばゆさに首をすくめて、笑い出しそうになったあたしは街を振り返った。

ここに、少し前まで居たんだ……

もう、住んでいた家はない。
親に書いて貰ったメモを取り出す。
これからお世話になる場所が書いてある。
あ……
メモに引っかかって、パスケースがポーチから落ちた。
慌てて拾いあげて、土をはらう。
それには、前に通っていた学校で撮った写真が入っていた。
あたしともう1人の男の子……2人仲良く写る写真が。

今頃、何をしているんだろう……

いくら写真を見つめても答えはない。
パスケースをポーチにしまうと、メモの住所を確認する。
道路の標識を手がかりに、キャスター付きの鞄を引きずり
ながら歩きだした。

2丁目は……
しばらく歩いても、メモに書かれた場所が見つからない。
どっちが北なんだろうと頭を悩ませながら、またメモに目を落としたその時………

「きゃっ!?」

前を確認してなかったあたしは、人にぶつかってしまった。
慌てて頭を下げると、その男の子は不思議そうな表情を浮かべて……

「あれ……お前……」
「……えっ………」

あたしの名前を呼んだ。

写真と変わらぬ笑顔を浮かべる彼を……
あたしは……見つけた。

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